さて、望ましいことではありませんが衝突数のデータが蓄積されたことから、衝突数を予測できるようになりつつあり、国内の環境アセスメントに導入した事例もあります。
衝突数予測は大きく3つのモデルで構成されているようです。
- 観察されたイヌワシの位置データから風力タービン計画地の飛行回数を予測するモデル。
- 風力タービン計画地を飛行するイヌワシが風力タービンと衝突する回数を予測するモデル。
- 風力タービン稼働後に発見された衝突死骸数を衝突予測数で割ることによりイヌワシが風力タービンとの衝突を回避する確率を予測するモデル。
- 様々な鳥類の回避率の予測値はNatureScotのホームページから検索でき、イヌワシについてはWhitfield(2009)の研究を引用して0.99とされています。この研究では、死肉食者による衝突死骸の持ち去り率ゼロを前提に、バンドのモデル(Band et al., 2007)で予測された衝突回数に対する回避率を計算しています。
- しかし、その翌年に、猛禽類を対象にした新たな死骸持ち去り実験のデータをSmallwood et al.(2010)が発表しました。この実験データを適用すると、従来型の死骸持ち去り実験データを適用した推定衝突数を大きく上回ります。したがって、回避率は0.99から大きく低下することになります。
- ある環境アセスメント準備書のまとめには、「ブレード・タワーへの接近・接触については予測の不確実性の程度が大きいと考えられる。」と書かれていました。モデルを用いた予測を公表する場合はこのような真摯な姿勢が大切です。
- まとめると、回避率込みの衝突数予測には下記の事項を考慮する必要があります。
- Bandのモデル又は近似できるモデルと組み合わせること。
- 新たな実験データに基づく死骸持ち去り率を適用した回避率を用いること。
- 不確実性に対応するため適切な信頼区間を設定すること。
- さいごに、衝突数の予測値と従来型持ち去り率を適用した回避率を組み合わせた20年あたりの衝突数が0.12個体で、新たな持ち去り率で0.202個体(又は0.360個体)に修正されたと仮定した場合の計算結果を書いておきます。なお、事故等の稀なできごとがある期間内に発生する回数の確率分布に使われるポアソン分布を仮定しました。
- 20年間で1個体以上衝突する確率は18.3 %(又は30.2%)。
- 20年間で予測される衝突回数の95 %信頼区間は1個体(又は2個体)。
[2023/12/10一部更新]
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