- 2025年(令和7年)6月3日、林野庁から令和6年度森林・林業白書が公表されました。
- 特集「生物多様性を高める林業経営と木材利用」を含めて生物多様性について記載したページ数は全部で35ページにおよんでおり、令和5年度白書の7ページに比べて質量ともに充実しました。
- 15ページでは、我が国の森林生態系の特徴と林業の歴史を概説したうえで、「行為規制から始まった我が国の森林の保護に関する施策は、生物多様性の概念も取り込みながら、単純な保護にとどまらず、保全管理・利用までを含む施策へと深化しているといえる。」と述べています。
- 実際、20世紀の終わりから21世紀の初めに盛んだった天然林保護運動は、我が国の二次林を守る代わりに、輸入木材、輸入パルプの原料を得るため、海外の原生的な森林生態系を犠牲にしてきました。
- このころ国内に放置された薪炭林やパルプ用材林の多くは、すでに萌芽更新(伐採した根株からの萌芽による森林の再生方法)に適した時期を過ぎています。また、輸入原料を前提に建設された大規模木質バイオマス発電所が各地で稼働しています。このため、「生物多様性を高める林業経営と木材利用」を実現するためには、新たな技術開発と、国民および企業の意識変革が大きな課題です。
- もう一つの大きな課題は、平成22年(2010年)、当時の民主党政権による行政刷新会議(通称事業仕分け)の際に消滅した、林野庁の生物多様性関連予算を復活することです。経営的に成り立たない人工林を、生物多様性を高めつつ針広混交林へ誘導するためにも、林野庁の生物多様性関連予算の復活が望まれます。
新潟のイヌワシニュース
新潟のイヌワシに関するニュースをお伝えする 新潟県イヌワシ保全研究会のブログです。
Niigata Golden Eagle News.
Blog of the Golden Eagle Conservation Research Group in Niigata
新瀉金鷹新聞。
新瀉金鷹保育研究小組部落格。
Niigata Steinadler Nachrichten.
Blog der Steinadler-Schutzforschungsgruppe in Niigata.
Новости о беркутах Ниигаты.
Блог исследовательской группы по сохранению беркута в Ниигате.
2025年6月10日火曜日
令和6年度森林・林業白書の巻頭は生物多様性特集。
FY2024 Forest and Forestry White Paper opens with a special feature on biodiversity.
FY2024 森林與林業白皮書以生物多樣性的專題開場。
GJ2024 FY2024 Das Weißbuch über Wälder und Forstwirtschaft beginnt mit einem Sonderbeitrag über die biologische Vielfalt.
FY2024 Белая книга по лесному хозяйству и лесоводству открывается специальной статьей о биоразнообразии.
2025年1月28日火曜日
アセスメント(=環境影響評価)制度・風力アセスメント制度に係る在り方についての答申案に異見書を提出しました。
We have submitted our objections to the draft report on the Environmental Impact Assessment System and Wind Power Assessment System.
我們已針對環境影響評估制度和風力發電評估制度的現況報告草案提出反對意見。
Wir haben unsere Einwände gegen den Entwurf des Berichts über den Stand des Systems der Umweltverträglichkeitsprüfung und des Systems zur Bewertung der Windenergie eingereicht.
Мы представили свои возражения по проекту отчета о состоянии системы оценки воздействия на окружающую среду и системы оценки ветроэнергетики.
- 環境省「今後の環境影響評価制度の在り方について(答申)(案)及び風力発電事業に係る環境影響評価の在り方について(二次答申)(案)」に関する意見の募集(パブリックコメント)(1月23日締め切り)に応募し、意見書を提出しました。主な内容は以下のとおりです。
- 環境配慮手続き、環境影響評価書の継続的な公開および報告書手続きに対する国の関与の必要性を答申案とされたことに感謝を申し述べました。
- 「種の保存法」「日ロ渡り鳥等保護条約」の保護対象であるイヌワシ・オジロワシについては、出生地と衝突場所との距離が非常に離れており、現在主流の「位置・規模のみなし複数案」では衝突防止に十分な離隔距離を確保できません。
- このため、十分な離隔距離を確保できる地域への立地誘導による風力発電の導入促進を図ること、十分な離隔距離を確保できない立地については衝突を回避または最小化できる構造の環境配慮型風力発電機の導入促進に必要な支援を国が行うことを提案しました。
- 環境影響、特に衝突死の予測・評価は不確実性が伴うため、実施後の衝突事故が起きてから順応的に管理するのではなく、あらかじめ、現地調査結果および予測結果の公表にあたって点推定ではなく区間推定法を用いること、絶滅危惧種や地域個体群の環境影響からの回復力を評価し公表することを提案しました。
- 事後調査の透明性を確保するため専門家等による必要な助言および審査を行う制度の設立を提案しました。この提案は建替事業に係る配慮書手続きを事後調査結果で代替する場合も当てはまります。
- 小規模風力発電事業では衝突を回避または最小化できる構造の環境配慮型風力発電機を採用した事業者に対して簡易な環境影響評価手法を認めること、必要な支援を国が行うことを提案しました。
2024年12月31日火曜日
2024年、新潟県におけるイヌワシの繁殖状況は、繁殖成功5ペア、繁殖失敗又は未繁殖6ペア、繁殖成功率0.455でした(2025年6月10日更新)。
In 2024, the breeding status of golden eagles in Niigata Prefecture was 5 pairs successfully bred and 6 pairs unsuccessfully bred or not bred, with a breeding success rate of 0.455 (updated June 10, 2025).
2024 年,新瀉縣內金雕的繁殖狀況為成功繁殖 5 對,失敗或未繁殖 6 對,繁殖成功率為 0.455(2025 年 6 月 10 日更新)。
Im Jahr 2024 betrug der Bruterfolg der Steinadler in der Präfektur Niigata 5 erfolgreiche Brutpaare, 6 gescheiterte oder nicht brütende Paare und eine Bruterfolgsrate von 0,455 (Stand 10. Juni 2025).
В 2024 году статус размножения беркутов в префектуре Ниигата составлял 5 успешных пар, 6 неудачных или не размножающихся пар, а коэффициент успешности размножения - 0,455 (обновлено 10 июня 2025 года).
- 2024年に県内で確認されたイヌワシの繁殖成功率は0.455でした。
- 内訳は、繁殖成功数(少なくとも1羽以上のヒナを巣立たせたペア数)が5、繁殖失敗数(1羽もヒナを巣立たせることのできなかったペア数)が6でした。
- この他、巣立ちも近い5月下旬以降まで育雛の痕跡が確認された1例、通常なら巣外育雛期の8月下旬に餌運搬の確認された1例の合わせて2例は繁殖成功の可能性が高いものの、調査不足等の理由で巣立ちした幼鳥もしくは巣立ち直前の巣内雛が確認できなかったことから成功と断定できませんでした。
- 一方、7月の調査で育雛の痕跡(ヒナの糞跡)が通常の巣立ち年よりやや少なかった1例は繁殖失敗の可能性があるものの、巣立ちのピークである6月の大雨で糞痕が流れた可能性があるため失敗と断定できませんでした。
- なお、2015年から2024年まで10年間の繁殖状況は、繁殖成功72ペア、繁殖失敗又は未繁殖94ペア、繁殖成功率0.434 [0.357-0.513] でした。
2024年11月14日木曜日
シリーズ:イヌワシの狩り(7)ペアハンティングのときのコミュニケーションの可能性
Series: Hunting Techniques of Golden Eagles (7) Communication possibilities when pair hunting.
系列:金雕的狩獵技巧 (7) 成對狩獵時的溝通可能性。
Serie: Jagdtechniken von Steinadlern (7) Kommunikationsmöglichkeiten bei der Paarjagd.
Серия: способы охоты беркутов (7) Возможности общения при парной охоте.
- 残雪がまばらな4月の丘陵で1羽のメスイヌワシが餌を探していた。
- メスイヌワシは浅い窪地の灌木を見下ろしてしばらく旋回したのち、丘陵の頂を越えて裏側の谷で半径の大きな旋回を繰り返しながら徐々に高度を下げていった。
- 狩りをあきらめたのかと思った直後、旋回するメスの下からオスが現れた。
- メスはオスをしたがえて窪地にもどると、高空にとどまって旋回を始めた。
- オスはメスの下で灌木に向かって波状に急降下と急上昇を繰り返す。
- オスは疲れたのか窪地上部の冬枯れの広葉樹にとまったが、メスに攻撃されて(叱られて?)すぐ飛び立ち、再び灌木に向かって急降下と急上昇を繰り返した。
- すると、灌木の中から2羽の冬毛の残ったノウサギが現れて、窪地を駆け上がって丘陵の背後に消えた。
- 上空で見張っていたメスは、ノウサギを追いかけて丘陵の背後に消えた。
- オスもメスに続き、しばらくするとカラスが群がって騒ぎ立てた。
- 別の事例では、遠くの狩り場から営巣地にかえって旋回しながら急降下と急上昇を繰り返すオスの下からメスが現れて、オスの後を追って狩り場へ向かう様子が観察された。
- また、若いオスイヌワシが狩り場の林縁にとまっていると、頭上に現れた成熟したメスイヌワシが半径の大きな旋回を繰り返しながらいったん降下したのち旋回上昇して、狩り場を遠方から見下ろすことのできる尾根の松に誘導する様子が何度も観察された。
- 成熟したのち類まれな狩りの技術を身につけた上記のオスは、新たに迎えた若メスが狩り場に突撃しようと体をゆすり始めると、まだ待て!とばかりにメスの眼前に急降下して突撃を制する様子が観察された。
- 日本のイヌワシAquila chrysaetos japonicaは、開放的環境を好む世界のイヌワシの中にあって、雪崩道、老齢広葉樹林、薪炭林などのモザイク的な森林環境に生息する特殊な亜種である。他亜種に比べて短い翼や華奢な足指などの外見的特徴だけでなく、根曲がりや灌木の下に隠れた獲物をペアで協力して捕らえるための高度なコミュニケーション能力を身につけて、森林国日本に適応しているのかもしれない。
- 現状ではイヌワシのコミュニケーションを科学的に証明できていないものの、生息環境の改善や野生復帰などの保護増殖事業において留意すべきであろう。
シリーズ:イヌワシの狩り(6)キツネ狩り?ノウサギ狩り?
Series: Hunting Techniques of the Golden Eagle (6) Is it a fox hunt? Is it hare hunting?
系列:金雕的狩獵技巧 (6) 您是在獵狐狸嗎?是在獵野兔嗎?
Serie: Jagdtechniken des Steinadlers (6) Jagen Sie Füchse? Jagen Sie Hasen?
Серия: Охотничьи приемы беркута (6) Охотитесь ли вы на лис? Охотитесь ли вы на зайцев?
- 新潟県におけるイヌワシの産卵時期は最深積雪深の時期を過ぎた直後であることが多い。
- 標高1,000m、積雪3mを越える老齢広葉樹林でペアのイヌワシが交互に急降下してキツネを狙っていた。
- すると、キツネの近くのブナの根元からノウサギが跳び出した。
- メスは目標を切り替えて、上空から足を垂らして逃走中のノウサギを掴み上げ、ブナの樹頂に舞い上がった。ノウサギは一瞬で絶命したようだった。
- オスは引き続きキツネを狙って急降下を繰り返していた。
- それに気付いたメスは、ノウサギをブナの枝の上に置き、枝が折れて平らになるまで数回押し付けた。
- オスのキツネ狩りにメスが加勢すると、キツネは灌木の根曲がりに後ずさりし、深雪に潜り込んで見えなくなった。
- キツネ狩りをあきらめたイヌワシペアは、ブナの樹頂からノウサギを回収して産卵を控えた営巣地に飛び去った。
2024年4月24日水曜日
2024年4月、上信越高原国立公園イヌワシ保全広域ネットワーク推進連絡会議が発足。
In April 2024, the Liaison Conference for the Promotion of a Wide-Area Network for the Conservation of Golden Eagles in Joshinetsu Kogen National Park (tentative translation) was established.
2024 年 4 月,「促進上信越高原國立公園金雕保育廣域網路聯絡會議」(暫譯)成立。
Im April 2024 wurde die Verbindungskonferenz zur Förderung eines weitreichenden Netzwerks zur Erhaltung der Steinadler im Nationalpark Joshinetsu-Plateau (vorläufige Übersetzung) gegründet.
В апреле 2024 года была учреждена Конференция по связи для продвижения широкомасштабной сети по сохранению беркутов в национальном парке Дзёсинэцу Коген (предварительный перевод).
- 令和6年(2024年)4月1日、上信越高原国立公園イヌワシ保全広域ネットワーク推進連絡会議が発足しました。
- 詳細は信越資源環境事務所の報道発表資料をご確認ください。
- 新潟県イヌワシ保全研究会では、上信越高原国立公園新潟県区域周辺のイヌワシ生息情報の提供、生態学的・林学的知見の共有(Natsukawa and Sergeo 2022, Natsukawa et al. 2024, 柳川・田中2009, 新潟県イヌワシ保全研究会・中越森林管理署2013)および保全対策の提案を行っています。
2024年2月25日日曜日
シリーズ:イヌワシの狩り(5)おどし、待ち伏せ、忍び寄りでノウサギを追い詰める。
Series: Golden Eagle Hunting Techniques (5) Scaring, Ambushing, and Sneaking up on Japanese Hare.
系列:金雕狩獵技巧 (5) 嚇唬、埋伏和偷襲日本野兔。
Serie: Steinadler-Jagdtechniken (5) Erschrecken Sie japanische Hasen, lauern Sie ihnen auf und schleichen Sie sich an.
Серия: Приемы охоты на беркута (5) Пугать, устраивать засады и подкрадываться к японским зайцам.
- 1月上旬、木の生えていない雪の斜面の向こうにある谷へ、オスのイヌワシが飛び込んだ。
- 谷の手前、標高1,300mの雪の斜面を点々とノウサギの足跡が横切り、疎らに生えたダケカンバの林に入るのが遠目からわかった。
- 谷から浮かび上がってきたイヌワシは、波状飛翔しながらノウサギの足跡をたどってダケカンバ林の上空に到達した。
- そのまま林の上空を通り過ぎたイヌワシは、雪に覆われた小ピークにとまってダケカンバ林から出てくるノウサギを待ち伏せた。
- 20分を過ぎた頃、小ピークから飛び立ったイヌワシは、ノウサギが消えたダケカンバ林の上空で停空飛翔した後、ゆっくり移動して斜面上部のダケカンバの林縁にとまった。
- イヌワシはすぐに飛び立つと、ノウサギのおよその位置を把握したのか、ダケカンバ林の中央部に向けておどしと思われる激しい急降下を繰り返した。
- イヌワシは再びダケカンバ林にとまったが、前回よりも林の中央部に近づいている。
- そろりと飛び立ったイヌワシは、ダケカンバ林の中央に開いたギャップに忍び寄り、静かに両足を雪面に降ろす。
- 一瞬で雪の中からノウサギをつかみ取り、1km離れた尾根に運んでから摂食した。
- 一連の狩りにかかった時間は少なくとも1時間43分、移動距離は2km弱だった。近年では、この狩場を含むあちこちの冬山にバックカントリースノーボーダーや登山者が訪れるようになり、イヌワシが落ち着いて狩りのできる環境が少なくなっている。
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