- 残雪がまばらな4月の丘陵で1羽のメスイヌワシが餌を探していた。
- メスイヌワシは浅い窪地の灌木を見下ろしてしばらく旋回したのち、丘陵の頂を越えて裏側の谷で半径の大きな旋回を繰り返しながら徐々に高度を下げていった。
- 狩りをあきらめたのかと思った直後、旋回するメスの下からオスが現れた。
- メスはオスをしたがえて窪地にもどると、高空にとどまって旋回を始めた。
- オスはメスの下で灌木に向かって波状に急降下と急上昇を繰り返す。
- オスは疲れたのか窪地上部の冬枯れの広葉樹にとまったが、メスに攻撃されて(叱られて?)すぐ飛び立ち、再び灌木に向かって急降下と急上昇を繰り返した。
- すると、灌木の中から2羽の冬毛の残ったノウサギが現れて、窪地を駆け上がって丘陵の背後に消えた。
- 上空で見張っていたメスは、ノウサギを追いかけて丘陵の背後に消えた。
- オスもメスに続き、しばらくするとカラスが群がって騒ぎ立てた。
- 別の事例では、遠くの狩り場から営巣地にかえって旋回しながら急降下と急上昇を繰り返すオスの下からメスが現れて、オスの後を追って狩り場へ向かう様子が観察された。
- また、若いオスイヌワシが狩り場の林縁にとまっていると、頭上に現れた成熟したメスイヌワシが半径の大きな旋回を繰り返しながらいったん降下したのち旋回上昇して、狩り場を遠方から見下ろすことのできる尾根の松に誘導する様子が何度も観察された。
- 成熟したのち類まれな狩りの技術を身につけた上記のオスは、新たに迎えた若メスが狩り場に突撃しようと体をゆすり始めると、まだ待て!とばかりにメスの眼前に急降下して突撃を制する様子が観察された。
- 日本のイヌワシAquila chrysaetos japonicaは、開放的環境を好む世界のイヌワシの中にあって、雪崩道、老齢広葉樹林、薪炭林などのモザイク的な森林環境に生息する特殊な亜種である。他亜種に比べて短い翼や華奢な足指などの外見的特徴だけでなく、根曲がりや灌木の下に隠れた獲物をペアで協力して捕らえるための高度なコミュニケーション能力を身につけて、森林国日本に適応しているのかもしれない。
- 現状ではイヌワシのコミュニケーションを科学的に証明できていないものの、生息環境の改善や野生復帰などの保護増殖事業において留意すべきであろう。
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